アンティキティラ島の機械
1901年、ギリシャ2のアンティキティラ島沖に沈んでいた難破船から引き揚げられた、青銅製の歯車装置。紀元前2世紀後半から前1世紀初頭のものとされ※1、太陽・月・惑星の運行や日食を計算して表示する天文計算機だったと考えられている。これに匹敵する複雑さの歯車機構が次に現れるのは中世ヨーロッパ5の天文時計で、その間に1000年以上の空白がある。古代の技術水準についての常識を書き換えた遺物であり、今なお研究と論争が続いている。
発見と構造
海綿採りの潜水者が沈没船を発見し、そこから引き揚げられた遺物のなかに、腐食した青銅の塊が混じっていた。これが30個以上の歯車を組み合わせた機構であることが分かり、以後100年以上にわたってX線や断層撮影を用いた解析が重ねられてきた。
装置は手回しのクランクで駆動し、歯数の異なる歯車の組み合わせによって天体の周期を再現する。特筆されるのは周転歯車(epicyclic gearing)の使用で、天体の見かけの運行が一定速度ではないこと──軌道の不規則さ──を機構として補正している。単なる歯数比ではなく、運動の非一様性そのものを機械に埋め込んでいる点が、この装置の技術的な核心といえる。
何を計算していたか
太陽と月の位置、月の満ち欠け、日食・月食の予測(サロス周期を用いる)が表示されていたことは広く認められている。加えて、当時知られていた惑星の運行も扱っていたとされ、ロンドン2大学(UCL)の研究では、断片AとDの証拠から金星について462年の周期関係に対応する機構が見いだされたと報告されている※2。
前面の暦盤については、365日の太陽暦ではなく354日の太陰暦に対応していたとする説が近年有力になっている。また、トニー・フリースらによる復元では、惑星と月の動きをリング上を動くビーズで示すという刻文の仕様に忠実に従うモデルが提示されている。
続く論争
近年の争点のひとつが「この装置は実際に動いたのか」である。2025年、アルゼンチンのマル・デル・プラタ国立大学の研究者らが、三角形の歯の形状と製造誤差を組み込んだシミュレーション2を行い、4か月分ほど回したところで歯車が詰まるか外れてしまうという結果を発表した。これが「実は試作品だったのではないか」「おもちゃだったのではないか」という見出しで広く報じられた。
ただし当の研究者らも、2000年の腐食を経た現在の歯車の計測値のほうがずれている可能性が高いと述べており、結論は出ていない。別の研究では、火星の表示が最大38度ずれうることが示されているが、その原因は製造上の欠陥ではなく当時の天文学そのものの限界によるものと解釈されている。工作精度の問題なのか、腐食による変形なのか、そもそもの理論の限界なのかを切り分ける作業が、現在も進んでいる。
要確認
- 製作者と製作地(ロドス島とする説などがあるが確認できていない)
- 2025年の「動かなかった」とする研究の評価は定まっていない
参照
- Antikythera mechanism - Wikipedia
- The Antikythera mechanism: ancient Greek computer that predicted eclipses | Euronews
- Months from failure: tiny flaws may have doomed Antikythera's gears | Earth.com
- Mysterious Antikythera Mechanism May Actually Be a Toy, Study Says | ScienceAlert
- So Did the Antikythera Mechanism Actually Work? New Research Casts Doubt | Ancient Origins
- 「アンティキティラ島の機械」の新モデル | ギズモード・ジャパン
- 最古の天文計算機「アンティキティラ島の機械」、実は機能していなかった? | ITmedia NEWS