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ブッダの耳錯覚

Buddha's ear illusion / Buddha's Ear Illusion / ブッダの耳
2026-10-26 add 1,624字

自分の耳たぶが数十センチも伸び垂れ下がったように感じられる身体錯覚。名古屋市立大学の小鷹研理と佐藤優太郎が報告したもので、名前は耳たぶの長い仏像の造形に由来する。装置を一切使わず、他者に耳たぶを軽くつまんで引っ張ってもらいながら、その下で「見えない耳たぶを伸ばす」パントマイムを見せるだけで誘発できる点が特徴。身体の形が変わって感じられる錯覚は多くが手や腕を対象としてきたが、これは耳という小さく可動性の低い部位で、しかも短時間に大きな変形感が生じることを示した。

起こし方

体験者は鏡の前などで、実験者に耳たぶをつまんでもらう。実験者はつまんだまま下方向に軽く引きつつ、もう一方の手で、伸びた耳たぶの続きをさらに引き下げていくような動きを宙で演じる。体験者はその手の動きを見ながら、耳たぶに加わる触覚だけを頼りに自分の耳の形を推定することになる。この視覚と触覚の組み合わせが数秒続くと、耳たぶが見た手の動きの分だけ伸びていく感覚が立ち上がる。

研究では、触覚側を「つまむ」「引っ張る」の2種類、視覚側を手を耳の下に静止させる条件(Stayed)と伸ばす動作を演じる条件(Mimed)の2種類に分け、計4条件を比較している。このうち、実際に耳たぶを引っ張る触覚と、伸ばす動作を見せる視覚とが揃った条件で変形感が強まるという交互作用が確認された。どちらか片方だけでは効果が弱いということで、視覚の演出と触覚の裏付けが両方必要になる。

報告された効果の大きさ

論文では、参加者の約88%が7段階評価で+4以上の「伸びた感じ」を報告したとされる。さらに半数以上が、10秒程度の刺激のあいだに耳たぶが10センチ以上下がったと述べており、実際の耳たぶの可動域からは大きくかけ離れた数値が出ている。著者らはこの点を、身体所有感の錯覚が通常受ける固有感覚上の制約を押し広げるものとして位置づけている。

一般向けの記事では「20センチ伸びた」といった見出しも見られるが、いずれも体験者の主観的な報告であり、物理的な変形が起きているわけではない。耳たぶの形そのものは変わらないまま、脳が持つ身体の見取り図だけが書き換わる現象である。

スライムハンド錯覚からの展開

この錯覚は、同じ研究室が扱ってきた「スライムハンド錯覚」を耳介領域へ適用したものとして提案された。スライムハンド錯覚は、手が飴のように引き伸ばされて感じられる現象で、関節の角度や手足の位置という固有感覚の情報だけでは説明できない「変形」の感覚を扱う系統に属する。ラバーハンド錯覚のように偽の身体部位を用意して所有感を移す方向とは異なり、自分の身体そのものがあり得ない形に変わると感じる点に主眼がある。

耳たぶは関節を持たず、固有感覚の受容器がほとんどない部位である。だからこそ、脳はその形を視覚と触覚から推定するしかなく、矛盾した情報を与えられたときに大きく譲歩する。耳という部位の選択はこの錯覚の効果の大きさに直結しており、小さく目立たない部位の選定が結果を支えている構造になっている。

要確認

  • i-Perception 掲載論文での参加者数。16名(平均21.3歳)という数字は2023年の日本認知科学会発表資料に基づくもので、2024年の論文の実験と同一の参加者群かは確認できていない
  • 「約88%が+4以上」「半数以上が10センチ以上」という数値は、論文の掲載ページの記述を検索結果経由で得たもので、原文そのものは参照できていない(journals.sagepub.com および PMC が本セッション2から到達できなかった)
  • Best Illusion of the Year Contest 2023 での扱い。同コンテストで発表されたとする記述があるが、入賞したのか応募・出展に留まるのかは確認できていない
  • 一般向け記事の見出しにある「20センチ」の出どころ。論文側の記述は「10センチ以上」であり、両者の関係が不明

参照

言及
なし
類似